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中国海警の武装警察編入は国防動員法補完措置か

 
先月のニュースだが、どうしても看過できないものがあった。沖縄・尖閣の我が国領海内に侵入を繰り返している中国政府の船舶が所属している「中国海警局(海上保安庁に相当)」が、中国中央軍事委員会直属の中国人民武装警察部隊(武警)」編入されるというニュースである。
 
読売新聞321日配信記事↓

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尖閣周辺で監視の中国公船、中央軍事委が管轄か
【北京=竹腰雅彦】中国国営新華社通信は21日、習近平(シージンピン)政権が進める共産党と国家の機構改革案の詳細を発表した。組織の統廃合を主とした過去と異なり、党、政府、軍などを網羅する全面的な改革となった。習総書記が打ち出してきた、党が国家運営の全てを統一的に指導、管理する中央集権体制を整える狙いがある。
改革では、沖縄県尖閣諸島がある東シナ海などで監視活動を行う中国海警局(海上保安庁に相当)が、中央軍事委員会直属の武装警察部隊(武警)に編入される。今後、尖閣周辺などでの公船による監視活動は、中央軍事委の管轄になるとみられる。(以上引用)
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この報道に対して我が国の識者は誰も詳細なコメントや解説を出しておらず、更にネット上でも取り沙汰する方が誰もいないようである。そこで当ブログでは、この「中国人民武装警察部隊(武警)」が中共体制においてどう位置付けされているかを述べてみたい。
 
中国海警の所属船舶が既に武装化されている(機関砲が搭載されている)ことは、3年前に確認されている。
 
時事通信20151222日配信記事↓
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中国公船、機関砲搭載か=沖縄・尖閣沖で初確認
 第11管区海上保安本部(那覇市)は22日、尖閣諸島沖の日本の接続水域で、機関砲とみられる武器を搭載した中国海警局の「海警」が航行したと発表した。尖閣付近で海警の航行は常態化しているが、外観上、武器の搭載が確認されたのは初めて。
 武装が確認されたのは「海警31239」。同保安本部によると、前後に2門ずつ、計4門の機関砲を搭載しているとみられる。(以上引用)
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この時点で筆者が疑問視したのは、中国が201071日に施行した国防動員法」を隠密裏に発動しているのではないか?という事である。
 
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●中国の国防動員体制と「国防動員法
 
中国における「国防動員」とは、以下のように定義されている。
 
【国家あるいは政治的集団が平時体制から戦時体制に移行し、戦争に必要な尽力、物資、資源などの調達を統一的に行うためにとる措置、および行動】
 
動員の種類は下記の通り。
 
  ・武装力量動員(現役部隊、予備役軍人、民兵武装警察)
  ・国民経済動員
  ・人民防空動員
  ・政治動員(国内外の民衆が対象)
  ・科学技術動員
  ・装備動員
 
国防動員の担当機構は「国家国防動員委員会」(1994年設置)で、国務院、中央軍委の指導下にある。そして、この「国防動員」の根拠法が国防動員法である。
 
国防動員法の特徴は、
 
・平時でも発動可能
・国防義務の対象者:18歳から60歳の男性と18歳から55歳の女性、
中国国外に住む中国人も対象となる。※第49
   → 2008年、長野市で在日中国人の動員実験済み
・企業経営者の予備役も動員対象
・中国国内の外資系企業も動員協力義務を負う
・国防の義務を履行せず、また拒否する者は罰金または刑事責任に問われる
 
「国防動員」により平時、戦時を問わず、中国は在日中国人を招集する可能性がある。最悪、数千人以上の在日中国人が自発的に、または中共当局の脅迫などにより、我が国の社会インフラ関連への破壊工作を実行し、また集団犯罪やテロを行う可能性も有り得る訳である。
 
もちろん既に沖縄や国会前で見られているように、左派系による公然と暴力を伴わないデモ等の各種示威行為に動員した人員を紛れ込ますという手法も、より大規模な形で行使されるであろう。
 
そして3年前の中国海警局の船舶が武装していた件に関わるのは、上記の
武装力量動員」(現役部隊、予備役軍人、民兵武装警察)である。
 
中国の民兵制度は『兵役法』民兵工作條例』に規定されており、18歳から35歳までの全ての男性が民兵役に服する事になっている。民兵部隊は人民解放軍の補助部隊と位置付けられ、戦時に於いては補充人員となる。また治安維持と前線支援の任務も与えられている。当然、武器や各種装備も自己管理している。
 
中共指導部が“国防動員”を発令すれば、民兵も、現在、尖閣諸島領海を侵犯している「海警」「漁政」「海監」等の政府機関も、人民解放軍の指揮下に置かれることとなる。
 
従って「海警」船舶が公然と武装していたという事実から推測されるのは、中共指導部が国防動員法」を隠密裏に発動しており、既に戦時動員体制へと移行しているのではないかという事である。
 
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中国人民武装警察部隊(武警)」とは
 
上記の武装力量動員」を領導指揮する機関は「中華人民共和国中央軍事委員会(中央軍委)」である。その中央軍委が統率する武装組織は以下のとおり。
 
中国人民解放軍(陸軍、海軍、空軍、第二砲兵)
中国人民武装警察部隊(略称:武警)
 
そして武警については中央軍委だけでなく国務院(内閣)の指導も受ける、“二重統率”体系になっている。その任務は、国家主権の維持、治安維持、共産党と政府機関の保衛である。
 
武警の構成は以下のようになる。

「武警総部」 → 「総隊」 → 「支隊」→ 「大隊,中隊」

 
総部(総司令部)は前述のように中央軍委と国務院の指揮下にあるが、その実働部隊である総隊(師団級)や支隊(旅団,混成団級)は、その所在している地域の省,自治区直轄市,市の各政府の指導をも受けている。
 
武警部隊はその任務によって以下の3部門に大別される。
 
(1)内衛部隊
→ 武警の主体部門で、武警総部が直接指揮する。その最大の任務は国家重要施設の警護保全と各種突発事件に際しての治安維持活動である。
 
(2)公安邊防,消防,警備の各部隊
→ 国境・境界の管理、消防、共産党・政府の要人と外賓警護。
 
(3)森林,水電,交通,黄金の各部隊
→ 森林管理、水利施設の建設・管理、貴金属の生産管理。
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本件、「中国海警局」が武警に編入されたという事は、おそらく上記(2)の公安邊防部隊への編入であろう。つまり国境・境界管理体系の一元化を意味している。
 
また中国の軍事指揮の総本山である中央軍委の直接指揮下になったことで、中国艦船の今後の尖閣および沖縄への領海侵犯行動は、「軍事行動」という認識となる。
 
「中国の武装組織の艦船が軍事行動として自国領海に侵入する」という重大な事実は、我が国安全保障の危機である筈である。ところが平和ボケの故か、「中国海警」が武警に編入されたという報道に対して、誰も重大視せずコメントを出し続ける識者もいないという驚愕すべき現状だ。
 
これでは我が国の行く末は危ないと言わざるを得ないのである。
 
(参考文献)
・<中華人民共和国国防法国家主席84号令、1997314日公布
・<中華人民共和国国防動員法国家主席25号令、2010226日公布
・<中華人民共和国人民武装警察法国家主席17号令、2009827日公布
・金鵬編著『国防力量』、(中国)軍事科学出版社、2003
・田越英著『圖解 当代中國國防』、(香港)中華書局、2013
・梁振威主編『圖解 中國國情手冊』、(香港)中華書局、2008
 

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