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港澳(香港、マカオ)往来28年、人生如賭博

香港長官選で“治安維持法”が争点に

 
来月26日に投開票が実施される香港特別行政区行政長官(任期5年)選挙。現在立候補を表明している5人は以下の通り。
 
●林鄭月娥(キャリー・ラム)、前政務長官
●曽俊華(ジョン・ツァン)、前財政長官
●葉劉淑儀(レジーナ・イップ)、新民党主席
●胡国興、元裁判官
●曽鈺成、前立法会議長
 
全員、民主派ではない(あからさまな親中派は林鄭月娥、曽俊華、葉劉淑儀の各氏)ので、実際に当選が予想されるのは、中共習政権が後押ししている林鄭月娥氏であろう。
 
もっとも先月の香港中文大学・伝播及民意調査中心による世論調査では、支持率トップが曽俊華氏の33.5%。以下、2位:林鄭氏、3位:胡氏、4位:曽鈺成氏、5位:葉劉氏となっている。
 
民主派(と本土派)の多くは「親中派の中では比較的マシ」という選択で曽俊華氏と胡氏を推す構えをとっている。これは林鄭氏が中共の支持を受けているのに対して、曽俊華氏は立候補表明時に中共が出馬断念を働きかけていた事によるためかも知れない。
 
だが現実問題として曽俊華氏が当選を目指すならば、親中派に有利な選挙制度であることに鑑み、林鄭氏支持の親中派の票を切り崩さなければならない。つまり林鄭氏との比較で、自らがより親中度が高いと習政権にアピールする必要がある。
 
それ故か、一昨日(2/6) 曽俊華氏は政策綱領(マニフェスト)を発表し、香港基本法23条に基づく立法、つまり香港の自由の死命を制する“治安維持法である「国家安全条例」の立法を推進すると明言したのである。
 
(香港)蘋果日報27日記事↓
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曾俊華政綱 再推23條 重政改 民主派指致社會撕裂 轟迴避撤8.31框架
【特首戰開打】
【本報訊】特首參選人曾俊華昨公佈政綱,表明會盡快為《基本法23條立法和重政改,23條會以白紙草案諮詢,並以先易後難方式處理,政綱載列重政改時未有提及人大8.31框架,被指迴避撤8.31框架,曾俊華其後在記者會稱8.31決定是政改基礎,但承諾日後會如實向中央反映港人不滿8.31的意見。有泛民選委批評曾俊華為23條立法會令社會撕裂,增添民主派選委對他的疑慮。(以下略)
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曽俊華氏によれば香港人公民権利と自由を侵されないよう保障する内容の法制化を進めるという事だが、所詮は中共への隷属を盛り込まざるを得ない“治安維持法となるのは誰が見ても判り切った話である。
 
その香港基本法第23条は下記の通り。
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香港特別行政區應自行立法禁止任何叛國、分裂國家、煽動叛亂、顛覆中央人民政府及竊取國家機密的行為,禁止外國的政治性組織或團體在香港特別行政區進行政治活動,禁止香港特別行政區的政治性組織或團體與外國的政治性組織或團體建立聯繫。
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これによれば、香港政府は以下の行為等を禁止する「国家安全条例」を自ら制定しなければならない・・・とある。
 
●国家(=中共)に対する反逆行為
●国家を分裂させる行為
●反乱を扇動する行為
●中央人民政府(=中共)の転覆
●国家機密の窃取
●外国の政治組織・団体が香港特別行政区内で政治活動を行うこと
●香港内の政治組織・団体が外国の政治組織・団体と関係を持つこと
 
そして反逆行為とは何か、国家分裂行為とは何か、反乱扇動行為とは何か、国家機密とは何か…という定義は、存在していない。定義も無いまま法制化を急がしているのが中共指導部(習政権)と香港政府なのである。
 
そもそも憲法に相当する「香港基本法」自体、その最終解釈権は北京の全国人民代表大会全人代)常務委員会にあって、香港の最高裁たる終審法院には無い。中共に「三権分立」は存在しないので、最終的には法治主義でなく人治主義に行き着く。
 
当初、香港政府はこの「国家安全条例」を20037月に成立させることを目指していた。しかし香港の自由と市民の人権が蹂躙されることを憂いた大多数の香港市民が50万人デモなど反対行動を繰り広げ、結局廃案となった経緯がある。
 
好意的に捉えるとするならば、曽俊華氏は完全に北京の指示によって香港の死命を制される前に、香港市民との折り合いをつけた法案を作ることを考えているのかも知れない。しかし生半可な妥協案は中共指導部の許容するところに無いことは、今迄の事例からして既に明らかである。
 
そして一旦基本法第23条に基づく「国家安全条例」を早急に作ると明言してしまったからには、香港行政長官選挙の最大の争点がこの点になることは避けられない。
 
3年前の香港「雨傘革命」のとき、民主派が占拠した九龍の繁華街・旺角(モンコック)の街頭にこんなプラカードがあった。↓
 
イメージ 1
201411月、筆者撮影)
 
尾籠な喩えで恐縮だが、究極の選択のことを俗に「ウンコ味のカレーか、カレー味のウンコか」などと言う。しかし香港行政長官選挙は既に親中派だけしか立候補できない仕組みになっているため、「カレー」の選択肢が無いという悲惨な状況になっている。従って香港市民は上記プラカードに描かれた選択しか出来ないのである。
 
ここで従来の民主派と、若年層を中心に増え続ける本土派とが結束して対処しなければ、“治安維持法たる「国家安全条例」によって自由な香港の未来は消失するであろう。そして香港の自由が失われれば、その先に控えているのは我が国の友邦である台湾への中国の圧力増大なのである。
 
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