賭狂がゆく

港澳(香港、マカオ)往来28年、人生如賭博

日本カジノはシンガポール型を目指すのか

 
 
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シンガポール、「マーライオン」と「マリーナ・ベイ・サンズ」。先週、筆者撮影)
 
昨日のエントリーで「カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備法案」(※正式名称:「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」、以下「法案」とする)、所謂「カジノ法案」の全文をご紹介した。
 
今回はそれを基に、カジノ議連と政府関係者が描く「IR」の基本構想について述べてみたい。
 
1.そもそも「IR」実現の目的は、何か
世上、「カジノ」を解禁するかどうかという点ばかりがクローズアップされていて、多くのメディアもそこに力点を置いた報道が多い観を受けるが、IRを実現する根本の目的は何か…と云う議論こそが国民的議論の中心になって然るべき筈である。そしてIRに対する政府の政策目的次第で、IRの制度設計が異なってくる訳である。
 
◎観光客の誘致か、税収の増加か
カジノが無いIRは、単なる大規模リゾート開発に過ぎなくなる。その結果、かつてのハウステンボス、宮崎シーガイアがどうなったかは、皆様ご承知の通りであろう。従ってカジノを併設する主目的が何かという事は、IRの経営戦略の根本と云っても過言ではない。主目的を大別すると、以下の2点になる。
 
(a)海外からの訪日旅客の誘致か
 
(b)国および地方自治体の税収増大か
 
(a)の訪日旅客の誘致重視によってもたらされるのは、観光振興とIR設置地域の経済振興である。この場合のカジノを含むIR施設建設と運営主体は「民設民営」となり「公募型プロポーザル」によって事業者が決定されるであろう。またIRへの大型投資を呼び込むために、国および地方自治体の設定するカジノ税率は低く抑えられることになる。
 
(b)の税収増加を主目的とする場合は「公設公営」または「公設民営」となり、政府・自治体が設計の細部まで決定して指名競争入札で事業者を選定し、高いカジノ税率を設定する筈である。これは競馬や競輪、競艇などの公営競技と同じである。
 
そして「法案」第二条では、許可を受けた民間事業者が事業主体になると明記されている。すなわち「民設民営」である。
 
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 (定義)
第二条 この法律において「特定複合観光施設」とは、カジノ施設(別に法律で定めるところにより第十一条のカジノ管理委員会の許可を受けた民間事業者により特定複合観光施設区域において設置され、及び運営されるものに限る。以下同じ。)及び会議場施設、レクリエーション施設、展示施設、宿泊施設その他の観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となっている施設であって、民間事業者が設置及び運営をするものをいう。
(太字下線は筆者による)
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ところが「法案」第一条では、両方の目的を狙っていると謳っていて、第二条との整合性がとれていない。恐らくは「観光客がたくさん来て金を落としてくれれば、地域経済は潤うし、同時に税収増で財政も改善されるだろう」程度の軽い認識しか無いのだろう。↓
 
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 (目的)
第一条 この法律は、特定複合観光施設区域の整備の推進が、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資するものであることに鑑み、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する基本理念及び基本方針その他の基本となる事項を定めるとともに、特定複合観光施設区域整備推進本部を設置することにより、これを総合的かつ集中的に行うことを目的とする。
(太字下線は筆者による)
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「二兎を追う者は一兎をも得ず」という結果にならなければよいのだが。
 
そして(a)の訪日旅客の誘致重視路線において現在の関心事は、2020年の東京オリンピックに向けて訪日旅客2,000万人という目標を達成するかどうかということにある。恐らく官民の努力でそれは達成可能であろう。
 
しかし問題は、オリンピック以降のIR経営である。前述したようにかつてのハウステンボス、宮崎シーガイアの経験を生かすことが出来なければ、私の予想では「1地域に1運営事業者」という現在の構想では、2022年度以降は赤字に転じる可能性がある。そして集客数も下降線をたどる筈である。
 
その場合、政府が行うであろう対策の内で最も可能性のあるのは特別会計からの支出による赤字補填、つまり国民の税金の投入。
 
現在「法案」においては、カジノ入場者のメインターゲットを海外からの訪日旅客に置いている。そして入場者から「入場料」を徴収するとしているが、海外カジノの事例より、非日本国籍の客はパスポートの提示だけでフリーパスとする、所謂「パスポート・カジノ」とする筈である。
 
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 (入場料)
十三条 国及び地方公共団体は、別に法律で定めるところにより、カジノ施設の入場者から入場料を徴収することができるものとする。
(太字下線は筆者による)
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これはシンガポール政府が行っている施策と同じである。以前にも書いたようにシンガポールでは、外国観光客であろうと自国民であろうと、パスポートまたは身分証明書等の提示が絶対に必要となる。特に自国民と永住権保持者に対しては、1回の入場毎に 100シンガポールドル(約8,000円)、または年間2000ドル(約16万円)の入場料を課している。しかも一回のカジノ滞在時間は24時間以内と決められている。
 
来年以降審議のIR実施法案では、賭博依存症の蔓延防止や風紀秩序維持など“自国民の保護”と云う観点から、シンガポールと同様の法制定、法運用を目指す条文になるものと思われる。しかしオリンピック以降の集客対策を考慮するならば、日本国民に対する「入場料」の縛りは緩いものになるか、もしくは撤廃される可能性も考えなくてはならない。
 
そんな事態を予防するためにも、「1地域に1運営事業者」という現在の構想から、「1地域に複数(2~5)運営事業者」へと転換し、海外訪日客増加に向けて競争原理を働かさせるべきである。そして「カジノ管理委員会」によるカジノライセンス認可も、“ブラックボックス”的な官による指名ではなく、「公募型プロポーザル」プラス一般競争入札でおこなわれるべきであろう。それはカジノの「公正性」の担保として重要な方策でもあるからだ。
 
※ちなみにラスベガスやマカオでは、通常の場合、パスポート及び身分証明書等の提示による年齢確認は為されておらず、自国民、非自国民を問わず「入場料」は一切徴収していないのが現状である。ただし明らかに子供と判る場合や見た目が幼い人の場合はセキュリティー要員がブロックしていて、これはかなり厳重である。
 
(つづく)
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