賭狂がゆく

港澳(香港、マカオ)往来28年、人生如賭博

Jカジノ地域分散の裏目的

 
3年前の東日本大震災の後、平成23621日に超党派の「国際観光産業振興議員連盟(IR議連つまりカジノ議連)」が大震災後初の総会を開いている。その席上、各議員から相次いで出た意見が、
「復興対策にカジノを」、「カジノは東北復興の目玉になる」
など、震災復興の観点からのカジノ合法化・施行を急ぐべきといったものだった、
 
あの時点でのカジノ議連の議員各氏は「東日本大震災の復興対策」という名目で、その実、震災を利用してカジノ合法化法案を一気呵成に通すことを狙っていた節がある。
 
もっとも先日のエントリーで記した、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備法案」(※正式名称:「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」、以下「法案」とする)では、流石に露骨過ぎる「震災復興」云々の文言は削られていた。
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 (目的)
第一条 この法律は、特定複合観光施設区域の整備の推進が、観光及び地域経済の振興に寄与するとともに、財政の改善に資するものであることに鑑み、特定複合観光施設区域の整備の推進に関する基本理念及び基本方針その他の基本となる事項を定めるとともに、特定複合観光施設区域整備推進本部を設置することにより、これを総合的かつ集中的に行うことを目的とする。
(太字下線は筆者による)
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現実問題として大阪府以外の各地方が独自に整備推進(つまりカジノ事業者の選定や折衝、統制管理)する能力は皆無に等しいから、国(政府)の差配となるのは必然。そのため、特定複合観光施設区域の整備推進は国の責務である、とされてはいるが、↓
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 (国の責務)
第四条 国は、前条の基本理念にのっとり、特定複合観光施設区域の整備を推進する責務を有する。
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しかし第一条に「地域経済の振興」という大義名分は盛り込まれており、また第三条でも「地域の創意工夫」を生かすと明記されている。↓
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 (基本理念)
第三条 特定複合観光施設区域の整備の推進は、地域の創意工夫及び民間の活力を生かした国際競争力の高い魅力ある滞在型観光を実現し、地域経済の振興に寄与するとともに、適切な国の監視及び管理の下で運営される健全なカジノ施設の収益が社会に還元されることを基本として行われるものとする。
(太字下線は筆者による)
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そして「地域経済の振興」には、各地域にIR(カジノ)を分散させる思惑がある。当然、震災の被災地を抱える東北地方も含まれている。前記平成23621日のIR議連総会では、実際に東北復興の目玉として仙台市などでのカジノ設立を求める意見が出でいた。
 
議員各氏の頭の中には、壊滅的被害を受けた仙台市沿岸部を有効活用できないものかという構想があるようだ。もっとも仙台市」の候補地は、具体的には仙台空港付近にある工業団地用地。つまり仙台市ではなく名取市岩沼市になる。
 
「カジノ」を作れば簡単にカネが転がり込んでくる・・・と単純に考えている国会議員はおそらくいない筈だが、いたとしたら相当のいかれポンチだろう。またカジノを核としたIR施設の計画から竣工までには、3~5年以上の時間が必要であることも知らぬ筈はあるまい。
 
例えば、10年前からラスベガスのカジノ王・ティーブ・ウィン率いるWynnの経営パートナーだったユニバーサルエンターテインメントパチスロ機器製造、JASDAQ,6425)にしても、自前で計画したフィリピンのカジノリゾートの構想から開業予定まで7年近く費やしている(※)。
 
(※)マニラ空港近くの海岸部「バゴン・ナヨン・フィリピノ・マニラ・ベイ・ツーリズム・シティ」内にて、平成26年開業予定。ただし現地の提携先との提携解消やら何やらで、今年中に開業できるかどうかは定かではない。
 
そしてカジノリゾートの売り上げにおいて最重要なのは、一般大衆客ではなく「ハイローラー」と呼ばれる富裕層である。アジア地域における「ハイローラー」の最大勢力は、華人系(大陸および東南アジア)客となる。
 
つまり華人系富裕層をはじめとする海外からのハイローラー集客という点を考えると、仙台付近でのIR施設開業は福島第一原発事故の完全な収束を待たなければならない。従って放射能漏れがまだ発生している現状では、仙台はおろか東北・北関東地域を候補地とするのはナンセンスな話。しかし多くの議員と関係者の頭の中には、当面の焦点としてカジノ関連施設という「箱モノ」建設、それに伴う土地造成工事、交通機関の整備、各業種の開業許認可といった所がインプットされたままらしい。
 
また、仮に議連のカジノ仙台誘致がそのまま進んで、最速3年後に開業までこぎつけたとする。ところがその頃には、前述ユニバーサルエンターテインメント社も参入するフィリピン・カジノリゾート群に加えて、ラスベガスのMGM社が南ベトナム Ho Tram Strip )で大型カジノリゾートを開業させている。
 
まだ発展途上(!)のマカオシンガポール、そしてフィリピン、ベトナムといった強力な競合勢力を向こうに回して、日本各地に分散したカジノが収益を上げていくのは至難の業であろう。集客の相乗効果という点から考えても、東京お台場や大阪ベイエリアといった集客効果の期待できる地域に複数のIR施設(カジノ)を誘致するという展開になる筈だ。
 
現段階でもここまで読めるにもかかわらず議連が「地域」にこだわったカジノ推進法案を提出しているのは、冒頭書いたように震災を「奇貨居くべし」と捉えているだけでなく、「パチンコ換金の合法化」という別の目的があるからだ。
 
カジノ合法化には、当然のことながら立法措置が伴う。刑法185186条で禁止されている賭博行為の違法性を覆す新法か、または刑法そのものの改正か、それともIR特区内での特例措置を講じるかのいずれかとなる。
 
また日本のカジノ内では、対人型テーブルゲームよりもスロットマシンなどの機械化・電子化されたゲームマシンの比率が高くなると予想される。特に海外客だけでなく日本人客の集客にも重きを置くという方針ならば、バカラなどのテーブルゲームに不慣れな日本人向けにパチンコ、パチスロ台ばかり揃える展開となるだろう。もしくはテーブルゲームにしても、オール電子化・無人化が進んだ機種ばかりとなるに違いない。
 
街の店舗と同じ機種のパチンコ、パチスロ台が存在する各地域の合法カジノ内で、建前では賭博と認定されていないパチンコと同様の「三店方式」による換金はナンセンスだから、当然ダイレクトな換金が可能になる。
 
問題は「法案」成立に連動して風営法改正の話になり、おそらくは
「同じ日本国内で換金方式が違うのはおかしい」
といった議論から、国内すべての地域において「パチンコ換金の合法化」がなし崩し的に決まってしまう事である。
 
現在「法案」においては入場者から「入場料」を徴収するとしているが、海外カジノの事例より、非日本国籍の客はパスポートの提示だけでフリーパスとする、所謂「パスポート・カジノ」とする筈である。
 
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 (入場料)
十三条 国及び地方公共団体は、別に法律で定めるところにより、カジノ施設の入場者から入場料を徴収することができるものとする。
(太字下線は筆者による)
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そして日本人のカジノ入場者登録に際しては「免許証」などの公的証明提出を義務化し、賭博競技への参加には掛け金を入金する「共通プリペイドカード方式」をとる公算大である。そうなると、各カジノはパチンコ業界とタイアップし、カジノ管理委員会が定めた形式によるカードにリンクして、カジノ特区・一般ホール両方で使えるSuica方式の「共通カード」を新規発行するだろう。
 
パチンコ業界が意外にもカジノ合法化に熱心なのは、自らが運営者にならなくてもよいからカジノを「パチンコ換金の合法化」の突破口とし、全国各地域のパチンコ業者の生き残りを図ろうと目論んでいるためでもあろう。
 
「手本引き」、「花札」など日本古来の賭博文化は庶民の息抜きに不可欠であり、当局も少々のことは目こぼししていた。それが現代では、「パチンコ」に集約化されてしまっている。しかも許認可と取締りが同じ官庁機関という、おかしな話になっている。
 
こんな不透明なパチンコ業界を淘汰消滅するチャンスでもあった「カジノ合法化」。しかし結局はパチンコ業界の生き残りに寄与するという、まやかしの結末が待っているのだろうか…。
 
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